(3)ロレックス Cal.1560(自動巻き)

ロレックスの歴代ムーブメントの中でも傑作といわれる、Cal.1560です。

 GMTやデイ・デイト機能を追加したいくつかの派生型の他、30年に渡って製造され、その間改良や部品の変更が繰り返された結果、細かく区分すると多くのタイプが存在します。

ロレックスCal.1560

様々な特筆すべき特徴を持ったムーブメントであるせいか、雑誌などに取り上げられることも多いので、ここでは今まであまり解説されたことの無い点に絞って述べたいと思います。
 ’70年代に入って、秒針停止機能が追加されましたが、既存の地板を切削し、 歯車の間を縫うようにして、テンプを停止させるレバーが配置されています。

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この機能の無い60年代のもの(写真下)と比較すると変更箇所がよくわかります。
 Ref.1016エクスプローラーⅠなどは、この機能の有無で相場が異なるようですが、あくまで私的な見解ながら、私はトラブルの確率が少なくなる旧型に好感を抱いております。
 また、60年代のもののほうが、全体の仕上げ、加工が丁寧で、メッキは上品な輝きがするものとなっています。

ロレックスCal.1560

 テンプが大きいため、精度が高いのがこの機械の特徴でもありますが、それによる問題点もあります。
 大きなテンプを駆動させるためにトルクの大きな(強力な)ゼンマイが使われていますが、そのトルクのため、2番車の油が切れると、2番車の軸と地板を削りながらも動作し続けます。
 この2番車の磨耗の進行が中程度の場合、測定器では一時的に正確な数値が出るため、軸の磨耗具合を目視で見極めることが大切です。大きなテンプによって、駆動力が低下しても精度が大きく乱れないため、ユーザーが気づかず、停止したときには大きなダメージを受けている場合が少なくありません。
このような場合は2番車の交換だけでは不完全で、旋盤を用いて地板の加工が必要になります。

 Rolex Cal.1560

その他、磨耗する部分としては、ローター芯があります。
 2番車とローター芯の磨耗度は、見積もりの際、必ずチェックしなければいけない部分です。交換には専用タガネが必要になります(画像の凹状のもの)。これらの磨耗も、油切れのまま長期間使用したことによるもので、他の部分で不具合が発生しないために、最後の最後でトラブルとして症状が出てくる箇所であり、欠陥/弱点とは言えないでしょう。

ロレックスCal.1560 ローター

また、カレンダーを12時ちょうどにチェンジさせる歯車を固定するのに、特殊なネジ(写真下の赤丸部分)が使われています。

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溝が3本切ってあるのがわかるかと思いますが、これは通常のネジとは逆に、時計回りに回すと緩むことを表しています。通常ドライバーを持つと、ネジを緩める場合、長年の習性で左へ回してしまうのですが、このネジは先が割れたドライバーを使うようになっているため、自然に修理人への注意を促すようになっており、私が大変感心している部分です。

 既成のドライバーを加工すれば5分足らずで作成可能なのですが、無理に通常のドライバーで作業したために、溝を潰してしまったり、細い軸部を折ってしまっていることがあります。この場合は純正部品での交換が最良の方法ですが、作成することも可能です。

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それには現在スイスでも発売されていない逆ネジ用ダイスが必要となりますが、当社では幸いにして60年代のMKS製(写真下)が入手できたため、作成には不自由しません。 その他、他社製ムーブでたまに見られる裏押さえのアーム折れなどが、数十年使用したものでも全く発生せず、このあたりにも材質の良さ、設計の巧みさがうかがえます。

 “最高傑作”と称されることが多いCal.1560系ですが、自動巻ユニット、カレンダー機構などは現行のCal.3135のほうが確実に進歩しています。“ロービート(6振動以下)時代の最高傑作”であることに間違いありませんが、このムーブにCal.3135の自動巻ユニットが組み合わされれば、理想的な機械ができあがるのでは、と思っています。

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