目で見る修理手順~エルメス・クリッパーの電池交換

時計の電池交換は単に電池を交換するだけと思っている方が多いと思いますが、実際は作業を開始する前の動作テストや外装の掃除など非常に大切な工程がたくさんあります。正しい作業工程で電池交換をしませんと、交換したのにまたすぐ止まってしまったということになりかねません。一見簡単そうな作業ですが、できれば経験のある時計修理職人に依頼されることをお勧めいたします。
所要時間は約20~30分で即日対応いたします。エルメスをはじめオメガやカルティエなどの舶来時計は¥3,300~(税込み)で、セイコーやシチズンなどの国産時計は¥2,200~(税込み)です。(特殊なお品物は事前にお見積もりいたします)

IC回路チェック

磁気帯びのチェック

電池交換の作業を開始する前に、防水検査と現在の機械の状況を確認します。既に防水不良が起きていたり単純に電池の残量がないということで時計が止まっていないかを検査します。
防水検査後にIC回路の発振の有無を確認します。次に方位磁石を使って時計に磁気帯びがないかどうかを確認します。磁気帯びしている場合は、脱磁装置を使って事前に磁気を取り除きます。

これで事前チェックを終了し、これから電池の残量を確認するために裏蓋を開ける作業に入ります。

裏蓋周辺掃除前

裏蓋周辺掃除後

まず時計の裏蓋周りのほこりやゴミを取り除きます。この段階できれいに掃除できていないと、裏蓋を開けた後の作業中に機械内部にゴミが入る可能性があるので、非常に大切な作業です。 左の写真は上が掃除前で下が掃除後です。

裏蓋を開けるところ

ケースにキズがつかないようにするためにビニールをかぶせたコジ開けを時計ケースと裏蓋の隙間に差し込んで裏蓋を開けます。 以前に裏蓋が開けられた時計の場合は、そのときの開け口を見極めて、以前と同じ箇所にコジ開け差し込むようにします。

裏蓋を開けたところ

〉〉〉これはダメ!

コジ開け仕上げ前

コジ開け仕上げ後

ぼろぼろのコジ開け(写真上)を使うとケースにキズがついてしまいます。丁寧な仕事をする時計職人は、作業前に必ず道具の手入れをするものです。

それぞれの写真をクリックで拡大写真

〉〉〉これは危険!

コジ開けでコイルを切断する悪い例

素人がコジ開けを差し込むときに機械を壊してしまう典型的な例です。コジ開けの先に見える茶色のコイルを切断してしまうと致命傷です。

電池の残量チェック中

開封したら古い電池を取り外して残量をチェックします。残量があるのに止まっている場合は、機械の油切れやゴミつまり、回路不良が止まりの原因と考えられるのでオーバーホールをお勧めします。また、前回の電池交換から1年経たずに電池がなくなっているような場合も、機械の汚れ等が原因で抵抗が増して消費電流値が高くなっていることが多いのでオーバーホールをお勧めしています。
電池残量がない場合は新しい電池を取り付けて実際に時計が動くかどうかを確認します。さらに機械に注してある油の状態や汚れ具合等をチェックします。

下の写真は電池を交換する前に顕微鏡で機械の状態を詳しくチェックしているところ。

機械の油の状態等チェック中

〉〉〉これはダメ!

使用推奨期限切れの電池

製造された日から日数がたっている電池を使用するのは好ましくありません。左の写真は使用推奨期限を過ぎた電池。当社は製造後3ヶ月以内の電池を使用。期限切れは古い電池と共に廃棄しています。

機械表面のゴミ取り

機械に付着しているほこりやゴミはできるだけ取り除きます。時計ケースの内側もできる範囲で掃除します。時計の状態により機械をはずしてガラス側のゴミを取り除くこともできます。

パッキンにグリースを塗布する

パッキンを交換中

裏蓋パッキンをはずしたら裏蓋の内側の汚れや錆を落とします。その後あらかじめシリコン・グリース塗布しておいた新しいパッキンを取り付けます。 さらにオプションとして、竜頭部分のパッキンの状態をチェックして、 可能であればパッキンを新しいものに交換します(パッキン交換できないものは竜頭ごと交換になる場合があります)。

裏蓋をしめるところ

裏蓋と時計ケースを合わせて蓋を閉じます。

防水テスト

防水時計の場合はテスターを使って防水試験を行います。

専用テスターで精度を最終チェック

最後にクオーツテスターで時計の精度を測定して作業が完了します。